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フェアに誠実に 黙々と古家具を直す

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「ギャップなんですよ。傍から見るとすごく楽しそうに見えて応募するんだけど、実際説明を聞いたら思ったより楽しめなさそうだな、みたいな」

「なんでかというと、時間に追われる。上司は商品のクオリティにうるさい。好き勝手リペアできない。案外地味。選考辞退する人が多いのは、それが本心だと思うんです」

インタビューの最初、ラフジュ工房代表の岩間さんはこう話してくれました。

イメージと実際の仕事のギャップ。これは企業と求職者双方にとって、採用における大きな課題の一つだと思います。

日本仕事百貨では、できるだけギャップがないような採用を目指し、丁寧な取材で言葉を引き出して、仕事内容や想いの部分を伝えてきました。

岩間さんの言葉を聞いて、今回もラフジュ工房のありのままを伝えたいと、あらためて思いました。

ラフジュ工房は、アンティーク家具の修理や販売を行っている会社。最近は不動産事業もはじめ、古い家を自分たちでリノベーションすることもあります。

今回はアンティーク家具の修理や、ラフジュ工房のオリジナル家具づくりを担うリペアスタッフと、そのアシスタントを募集します。アシスタントとして経験を積み、より高度な技術を要するリペアスタッフに挑戦することも可能です。

黙々と集中して働き、休み時間に同僚と雑談をする。お客さんのためにプロフェッショナルな仕事をしていきたい、そんな同志を探しています。

 

ラフジュ工房があるのは、茨城県常陸太田市。

JR常陸大宮駅からタクシーに乗り、10分ほどで本社に到着した。

白い本社屋の奥にある三角屋根の建物が工房。見た目より奥に続いていて、中は広々としているようだ。

本社屋のとなりにある建物の休憩室で迎えてくれたのは、代表の岩間さん。理論的にテキパキと話してくれる。

もともとは岩間さんが買い付けてきた古家具を、実家の裏庭で直して販売するところからはじまったラフジュ工房。

日本の古い家具を未来に残したい。そんな想いで18年前に会社を立ち上げた。

以降、一時期は従業員の離職率の高さや採用率の低さに悩んでいたけれど、ミスマッチを減らす努力をしたことで、離職率はかなり低下。

一方で、地元採用を続けていたなかで採用率が上がらなくなってしまった。そこで、今回の募集から全国から人を募る方向性に変えることに。

「ちゃんと体制は整えていて。サービス残業もないし、有休消化率も100%。以前募集させてもらったときも分母は増えたのに、年間の採用人数は変わらなくて」

なるほど… どうしてなんでしょう。

「おそらく、ギャップなんですよ」

ギャップ、ですか。

「傍から見るとアンティークって華やかで楽しそうに見える。けど、いざ応募して面接で話を聞いてみたら、なんだ思ったより楽しめなさそうだな、みたいな」

「あと、みんなでわいわいと仕事をするようなイメージで来ると違っていて。基本的に一人で黙々と作業をする。わからないことがあれば、館内放送で先輩を呼んで教えてもらう。前の記事では刑務所みたいって書いてもらいましたね」

工房はそれぞれ個室になっていて、冷暖房が完備。スタッフそれぞれが自分の担当する家具を修復しているため、個人プレーがほとんど。仕事以外の私語は基本的に禁止されている。

作業も、家具の大きさによっては力仕事もあるし、古い物なので汚れ仕事もある。

面接や説明会では、岩間さんは「ネガティブプレゼンテーション」と自称するほど、会社のネガティブなことを強調するスライドを見せるそう。

「どうしても、みんないい想像をして来るんですよね。いくら俺がそんなに甘くないし大変だよって言っても、こういう仕事やりたかったんです、って言ってくれる。それで辞めていく」

「葛藤ではないですけど、なんでこうなっちゃうんだろうってずっと思ってきました。だから今は、面接や説明会では2時間たっぷり、自分の会社の大変なところをひたすら言い続けるっていう(笑)。それでよければどうですかって」

たとえばいくら個人が頑張っても、会社として成果があがらなかったら意味がない。

お金をいただいて仕事をしている以上、自分たちの楽しみよりも、いかにお客さんに満足してもらうかが一番。

「俺は社員に対して、フェアに誠実に、真摯に向き合ってるだけなんですよ」

今回の募集を機に新たな制度も考えている。それが国内ワーキングホリデー制度だ。

「県外から来るって、勇気がいると思うんですよね。それで考えたのが、逆に2年間だけ働いてくださいと」

「要するに、辞めやすければ来やすいじゃないですか。あえてハードルを取っ払って、2年間限定の契約で入ってもらって、2年後は堂々と辞めていい。残りたい人はもちろん残ってもいい。そういう制度をつくろうと思って」

応募する人にとっては、最初のハードルが低くなりますね。

「加えて、中古物件をリノベーションしようとしていて。ここから車で10分ぐらい。そこをシェアハウスにして、ワーホリ制度で来る人が、わざわざいろいろ買い揃えなくても住めるようにする予定です。家賃も半分会社が負担します」

「家に帰れば仲間がいるから、職場じゃできないコミュニケーションもできるし、それがいやな人は一人暮らししてもいい」

ほかにも、社員からスタッフ同士のコミュニケーションをもっととりたいという話を聞き、休憩場所にお菓子スポットを用意して、話しやすい環境をつくるなど。

論理的に考えて、会社や社員にとっていいことは応援する。そんなフェアな姿勢は、なんだか好感が持てる。

岩間さんの考え方はどんなところから生まれているのだろう。

「うちは強気ではいられない規模なので、ビジネスの中心はお客さまだし、会社の中心は社員なんです」

「あくまでも俺は、裏方、黒子っていう認識でやっているつもりです」

これまでさまざまな人を採用してきた岩間さん。どんな人がこの会社に合っていると思いますか?

「例外はあるかもしれないですが、他者貢献意識のある人が結局残るなと思っていて」

「辞めちゃう人って、どうしても自分本位な人が多い気がする。お客さまのことより、自分のことを優先してしまう。リペアも、ここはもうちょい気を遣ってやろうよ、っていうところができていない。一事が万事なんです」

あとは相性ですが、こればっかりは入ってからじゃないとわからないんですけどね、と笑う岩間さん。

「あとうちはけっこう潔癖な会社なんですよね。余白がないというか。それをね、昔ホワイト圧がすごいって言われたんですよ(笑)」

「入ったらわかるっていうのはね、本当そうです。ただうちとしてはやっぱり、フェアに誠実にいたい。いいことだけ言いたくはないっすよね。それだけです」

 

続いて話を聞いたのは、リペアスタッフの奥村さん。

もともと美大で木工専攻だった方で、ものづくりの仕事がしたいと応募したそう。

「最初はハローワークで知って、求人応募したらFAXが来たんですよ。『うちはちょっと仕事がきついので、覚悟してきてください』みたいな感じのメッセージが書いてあって。一回それでやめちゃったんですよ(笑)」

「そのあと別のところで働いていたんですけど、やっぱり好きな手仕事とかものづくりの仕事がしたいと思って、もう一度応募しました」

リペアスタッフである奥村さんの仕事は、主に木工作業に携わる家具修理。ひたすら個室にこもり、家具を直し続けている。

「長いときは、1つの家具で1週間くらいかかる場合もあるので。綺麗そうに見えても、中の虫食いがひどかったりとか。そういうことも多いんです」

「はじめのころは体力的にきついこともあって。フィニッシングっていう塗装の作業もしたし、リペアもやったし。大変でしたけど、今思うと楽しかったですね」

仕事のスタイルとしては、まったく会話がないわけではないそう。どうやって作業すればいいか悩んで、ほかのスタッフにアドバイスをもらいに行ったりすることも多い。

また、必ず上司に修正方法の確認をとってから作業に入るので、こまめな報告は大切。

印象に残っていることを聞いてみると、九尺の重ね水屋箪笥を修理したときのことを話してくれた。

「欅でつくってある立派なものだったんですが、全体的に反りがひどくて。曲がっている部分を薄く割いて、裏に金属を入れて矯正していったけど、欅の反りが薄く裂いても残っちゃうぐらい強くて強くて。できたときは、珍しく撮影スタジオに行って、自分で記念の写真を撮りました」

難しい補修は、社長の岩間さんと相談しながら行うことも多いそう。一人に任せきりにはならないから、安心してほしい。

 

最後に話を聞いたのが、おなじくリペアスタッフの内田さん。

内田さんは少し特殊な働き方で、お客さんとの営業や引き渡しなどの仕事もしている。

8年前に入社したきっかけは、日本仕事百貨の記事を見たことだった。

プライベートでも、古家具やアンティークが好きだった内田さん。未経験可だったのも背中を押した。

「難しかったですね。工具も、これは何の道具なんだっていうところからだったので。木材もわからないし、料理できない人が調理場に立ったような感覚です。とにかく必死で覚えました」

「最初は簡単なものから任せてもらってリペアするところからはじめました。建具とか無垢ボードとか。簡単な収納棚をつくったり。当時は直したものをサイトで販売していたんですけど、今は直す前のものをサイトに掲載して、お客さんの要望に応じてリペアするという形をとっています」

初心者だと当然失敗してしまうこともある。そのときも、何が間違っているのかは見ればわかるので、注意を受けても自分のなかで納得して消化することができたそう。

「理論的に説明してくれるので。そのおかげでなんとかやってこれた気がしますね」

アンティークというと華やかなイメージがあるけれど、水仕事もあるし、重労働で汚れたものを扱うこともある。

工作機械は気をつけないと怪我をすることも。実際に内田さんも大事には至らなかったものの、指を切ってしまったことがあるそう。

「たぶん、直す前の家具とか見たらびっくりするかもしれない(笑)。この前なんか、家具から虫の死骸が24匹出てきたもんね。数えちゃったもん。あとは干からびたネズミとか。衝撃的だったな」

「自分はお客さんと直接お会いする機会があるので、お客さんからお褒めの言葉をいただけるのはうれしいですね。リペアスタッフにもその言葉はできるだけ伝えるようにしていて。彼らは直接お客さんと会うことがないので、そういったうれしさを少しでも感じてほしいなと思います」

内田さんから見て、この会社に合っている人はどんな人でしょう。

「そうだな… 仕事に対して責任が持てるかどうか、ですかね。物が最終的にお客さんのところに行くっていう意識がある人は、続いてるような気がします」

「これだと手触りが痛いよねって、ちゃんと気づけて直せる。思いやる気持ちがある人が集まっている場所なんじゃないかな」

 

フェアで誠実。もちろんいいことなんだけれど、合う合わないはハッキリしている。

それでも、ラフジュ工房でのものづくりは、その志のもと集った人が手がけるからこそ成り立っているのだと、取材を通して感じました。

臆する必要はありません。気になる人は、まず一歩踏み出してみてください。そこからどうするかは、あなた次第です。

(2025/01/30 取材 稲本琢仙)

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