「和紙でできること、無限にあるんちゃうかな。希少性のある仕事って、きっとおもしろいと思うんですよね」
創業から80年。全国の産地から和紙を仕入れ、販売してきたのが、大阪にある株式会社オオウエです。
和紙と特殊紙の卸売業を軸に、ここ数年は和紙を使ったパッケージなどの企画・提案にも力を入れています。
今回は、卸売や企画提案、協力会社へのディレクションなどを幅広く担うディレクターを募集します。
業界経験は問いません。まずは代表と一緒に案件を担当しながら、和紙や加工について知識を深めていきます。奥の深い世界だからこそ、なにより好奇心を大切にしたい。
伝統工芸やものづくりに興味がある人。腰を据えてひとつの仕事にじっくり取り組みたいと考えている人。ぜひ続きを読んでみてください。
聖徳太子が建立したと伝わる、大阪・四天王寺。オオウエのオフィスはこのまちの一角にある。
少し早めに着いたので、四天王寺さんへお参り。顔を上げると、天王寺エリアのシンボル・あべのハルカスが見える。
1000年以上の歴史ある建物とビルが入り混じるこの風景、関西ならではだなぁ。
そんなことを考えながら少し歩く。大通り沿いにオオウエのビルを見つけた。
事務所で挨拶をして、応接室へ。
中に入ると、便箋や箱、ランプシェードなど、和紙を使ったさまざまなプロダクトがずらりと並んでいる。
なかには、和紙のクッションまで。
「すごいでしょ。和紙ってなんでもできるんやなって、僕も入社して驚きました」
そう話すのは、代表を務める大上陽平さん。
大阪弁のカラッとした話し方が心地いい。
1948年に創業したオオウエ。その後お祖父さん、お父さん、お兄さんとバトンを継ぎ、現在は陽平さんと4人の社員で運営している。
長年、和紙問屋として日本各地の産地と顧客をつないできた。
「卸売では洋紙、いわゆるツルツルとした印刷用紙を扱う会社さんが顧客です。『こういう紙を使いたいんやけど』という問い合わせから始まり、見本帳を見ながらこれかな? という紙を提案。産地から仕入れてお届けします」
和紙は種類が多いこともあり、オオウエのような専門商社が存在する。全国でも10社ほどと、ニッチな業界なのだとか。
箸袋や便箋、障子や扇子、少し昔には株券など。暮らしのさまざまなところに使われていた和紙だけれど、紙離れなどの影響もあり、需要が減りつつある。
オオウエの価値ってなんだろう? そんな問いからここ数年注力しているのが、パッケージをはじめとする新たなプロダクトの企画提案。
「紙をただ届けて終わりじゃなくて、素材選びから加工にも関わって、形にするところまで手掛ける」
「紙の知識や加工業者さんとのつながりがある僕らだからできる仕事ですし、和紙やつくり手の素晴らしさを世の中にしっかり伝えていくのが、オオウエの役割だと思うんです」
まさにそんなプロダクトができたんです、と見せてくれたのは、あるセレクトショップと一緒につくったというギフトボックス。
箱としてのしっかりとした骨格はありつつ、軽い力でパタンと平面にもできる。
場所もとらないし、この箱の感じ、高級感があって素敵ですね。
「ありがとうございます。日本らしさや、ブランドの雰囲気を感じられるパッケージをつくりたいとご相談をいただいてつくりました」
「これは貼り箱ですね。表紙に使ってるのは、銀鼠(ぎんねず)色の美濃和紙です。これはロボットが貼っているんですよ」
ロボットが!
「業界的に、貼りの作業は中国の業者さんにお願いすることが多いんですが、原価は上がりつつあるし、納期が守られなかったり、品質不良率が高かったりする。その点、国内には技術力のあるメーカーさんがたくさん残っているんです」
「どこにお願いしようか考えていたとき、岡山に面白い加工会社さんがあるよと、取引先の会社さんからご紹介いただいて。加工まで手掛けていただくことにしたんです」
オオウエは和紙のプロではあるけれど、自身がものづくりをするわけではない。
貼り以外にも、印刷や組み立てなど。必要な加工に応じて協力業者を探し、試作から生産にたどりつくまで試行錯誤を繰り返していく。
場合によっては、素材である紙づくりから関わることも。
「草木染め用に、水で破れへん紙はできんかな? とか、革みたいな紙をつくりたいんですけど、できますかね? とか。そういう話をしているときが一番楽しくって」
「僕はプロダクトができても、本当にかっこいいと思ってもらえるかな? と不安になっちゃうタイプ。でもお客さんの反応を見て、和紙でバチっとハマるものができた! と感じられると、めちゃくちゃうれしいんですよね」
今回ディレクターを募集するのは、まさにそんな仕事を増やしていくためでもある。
いまのところ、陽平さんが卸売、企画提案などを一手に引き受けている状況。新しく加わる人は、卸売業をベースにしつつ、企画提案にも積極的に関わってほしい。
「なにより、紙への興味が大事かなって思います。さっきお見せした箱は、スタバで見かけたギフトボックスから着想したんですね。『これ、うちでもできへんかな』って、つい考えちゃうような人に来てもらえるとうれしいです」
最初は得意先を一緒に回り、案件を担当しながら紙の特性や加工法について学んでいく。
その後の進め方については、新しく入る人の経験や関心をふまえて考えたい。たとえば海外に関わる仕事をしてきた人なら、日本を飛び出して和紙の魅力を伝えていく仕事もできるかもしれない。
陽平さんは月に一度、四国や福井、岐阜、鳥取などにある産地を訪問しているそう。イベントに出展することもあるから、出張なども楽しめる人だとよりよいと思う。
逆説的ではあるけれど、和紙をつくり続けるためには、売れるものをつくることも大事、と陽平さん。
たとえば、オオウエがオリジナル商品として販売している眼鏡拭き。
和紙の質感と機能性が両立したこの製品。土佐和紙のメーカーに、アクリル繊維を混ぜて漉いてもらっている。
「抄きも機械ですし、『そんなの和紙ちゃうやん』と言われることもあります。でも、元来の形にこだわりすぎて会社が廃れてしまったら、和紙を売ること自体むずかしくなって、お客さんを困らせてしまう」
「いろんな声は聞こえてくると思うけれど、既存の枠にとらわれない提案をしていきたいと思っています」
見方を変えれば、提案次第でできることが広がっていくということ。
「最近、京都の草木染め職人さんと仕事をしているんですが、彼らも悩みを抱えていて。西陣織が使われなくなって、糸染めの仕事がほとんどないと」
「じゃあ、興味ありそうな企業さんとつないでなにか一緒にやりましょうとか、話がふくらんで。時間はなんぼあっても足りんくらい、やれることはいろいろあるなって思いますね」
いろいろな人を巻き込みながらものをつくる。
商社という形だからこそ、伝統産業に対してできることがあるんだと思う。
「役割は異なるけれど、小西さんみたいな人に来てもらえるといいかも。商品パッケージを見るのが好きで、『最近こんなの流行ってるみたいですよ』とか、よく教えてくれるんです」
そう紹介されたのは、事務の小西さん。顔が写るのは控えたいとのことで、横顔を撮らせてもらう。ほがらかな雰囲気を持つ方だ。
「つい見ちゃうんですよね。最近は箔押しされたパッケージが多いなぁとか」
じつは小西さん、卒論のテーマが和紙だったという。
「史学を専攻していて、和紙っておもしろいなと。書くもの以外にも、日用品とか服とか、いろんな場面に使われてきた」
「機械漉きの和紙があることは入社して初めて知りました。応接室にあったプロダクトみたいに、いろいろなアレンジができるのもおもしろいですね」
じつは、オオウエでは和紙をモチーフにした一棟貸しの宿をつくる計画もあるのだそう。
たしかに、壁紙だって紙。想像できていないだけで、和紙の使いどころはまだまだあるのかもしれない。
一方で気になるのが、知識のこと。小西さんはどうやって身につけていったんでしょう。
「もう、日々の積み重ねですね」
「同じ紙でも『67.5kg』と呼ぶ人もいれば『ロクナナハン』って呼ぶ人もいる。紙業界では厚みを重量で表現するんですけど、kgかgかも人によって違いますね」
加えて特殊なのが、同じ作業をすれば同じ製品ができるとは限らないこと。
似たような仕様でも、扱う紙が異なれば機械の動かし方も変わる。希望通りの寸法で納められるか、都度たしかめないとわからないことも多い。
「いけるんちゃうかな? と思っても、加工屋さん目線ではむずかしい、ということはよくある。その具合はマニュアルにできるものじゃないから… やりながら知っていくのが一番かなと思います」
仲間に加わるなら、どんな人がいいでしょうか?
「ものづくりに興味がある人、ですかね。長くお付き合いしている加工屋さんでも、頼んでいる加工以外にどんなことができるかって、意外と知らないことが多くて」
「この会社さんはこんなこともできるんだよっていうのを、新鮮な目で見つけてくれるといいですね。関わり方が広がりますし、いろいろな製品づくりに携われると、もっと仕事がおもしろくなると思います」
最後に話を聞くのは、倉庫管理と配送を担当している柿元さん。
言葉数は少なめだけれど、聞くといろいろなことを教えてくれる。新しく入る人のことも、きっと支えてくれると思う。
「陽平さんは、不器用なところあるから。会社をどうしていきたいとか、そういうことをもうちょっと社員にも共有したほうがいいんちゃうかな。本人にも伝えてるんですけど」
「一本、柱のようなものが見えたら、僕らもこんなことできるよって言える。やりたいことを叶えていくなら、みんなの力を借りて一個一個クリアしていく必要があると思うんです」
するとここで陽平さん。
「柿元さんも小西さんも、僕が入る前から働いてくれていますし、もともと倉庫管理や事務として入社してもらってるんで。会社をこれからどうするとか、もともとの仕事以外までお願いするのは求めすぎだと思ってたんです」
「でも、僕ひとりで育成まで担うのは限界があると感じて。思い切って相談してみたら、アイデアを出してくれたり、サポートしてくれたり、とても力になってくれた。だから、もっと頼っていこうって思っています」
今回も、陽平さん一人ではなく、社員みんなで協力して新しく入る人を受け入れていきたいと考えているから、安心して飛び込んでいってほしい。
柿元さんもうなずく。
「陽平さんとは、あまり気を遣いすぎずにコミュニケーションできるといいんちゃうかな。積極的な人のほうがいいと思います。そのほうが僕らも教えやすいし」
「あとね、プロダクトやSNSを見ると華やかに見えるんやけど、たぶん日々は地味な仕事。加工できる業者さんを探したり、見積もり取ったり、スケジュールを調整したり。複数の案件を動かしていくことになるから、そのへんをきっちり進めていける人がいいと思います」
紙に触れ、人に触れて。和紙を自分の身に染み込ませていく。
その過程で、形にしてみたいことも見つかるはず。
焦らず、なんでも話して、この仕事を少しずつ楽しめるといい。オオウエのみなさんもきっと一緒になって考えてくれると思います。
なにかむくむくと湧き立つものがあったら、その予感を信じてみてほしいです。
(2025/01/16 取材 阿部夏海、中野悟史)
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