すべての人が、ありのままでいられること。自分とは異なる個性や文化を認め合うこと。自分と他者との間にすこやかな関係を築いていくこと。
これらの目的地に向かって、他者と出会い、ともに生きる場所や、自分を見つめ直したり、やり直したり、生き直したりするためのリソースを提供する。
そんなミッションを掲げているのが、一般社団法人みんなのいえです。
2020年からは、子どもの居場所を運営し、こどもたちの健やかな成長を支える事業を進めてきました。
そして昨年、日本財団から助成を受けて、沖縄県南城市に「子ども第三の居場所」みんなのいえを開きました。
家庭でも、学校でもない、すべてのこどもが安心して過ごせる。人への信頼や安心感、自己肯定感を得て、生きる力を育む場所です。
最近では支援対象を広げ、障がい福祉の相談支援事業にも取り組んでいます。
ここで、こどもたちをはじめ、さまざまな人と関わっていくスタッフを募集します。
福祉や心理の資格があればうれしいですが、経験がなくても大丈夫。
生きづらさを抱える人を放っておけない。そして、そうした人を取り巻く社会課題を解決したい。そんな想いがある人なら、きっと活躍できるはずです。
那覇空港に着くと、あいにくの曇り。車を40分ほど南へ走らせる。
海にほど近い森のなかの敷地に、さちばるビレッジを見つけた。看板犬に迎えられつつ、中へと入る。
ここに、みんなのいえが運営する子どもの居場所や、カフェ、ゲストハウスなどがある。3つの建物がウッドデッキでつながっていて、開放的。
「こどもって、いろいろじゃないですか。グループでわいわい遊びたい子もいれば、ひとりで過ごす子もいるし。誰もがありのままの自分で過ごせるように、あえて空間を小分けにしたんです」
そう教えてくれたのが、みんなのいえの創設者の福田さん。
左に座っているのは、スタッフの椿野さん。「せっかくなら一緒に写ろうよ!」という声かけに応えてくれた。
「ここでの滞在を含めて、僕たちのことを知っていただけたらうれしいです。ぜひ、自由に過ごしてくださいね」と福田さん。
ちょうど、さちばるビレッジに来ていた男の子が犬と散歩に出かけるようで、ついていくことに。
施設から歩いて1分も経たないうちに、海が見えてきた。
こどもは犬とリードを引っ張り合いながら、沿岸を走っている。近くにいるスタッフさんは、こどもからの発話があれば、相槌を打って反応するくらいで、話しかけることはしない。
いつもこんな感じなんですか?
「そうですね、見守っているだけといえばそうかもしれません。なにかあったかな?とか、危ないなと思ったときだけ、声をかけます」
こどもへの対応も、スタッフさんによって多種多様なんだとか。
施設に戻り、みんなのいえができるまでのことを福田さんに聞いてみる。
熊本出身の福田さんは、さまざまな仕事を経験して、2001年に沖縄へと移住してきた。
もともと、基地問題など沖縄を取り巻く社会問題に関心があったという。
転機となったのは、2014年、普天間基地の辺野古移設に反対するデモに参加したときのこと。
「押し合いが続くなかで、70歳くらいの女性が、20代くらいの機動隊員に対して『あんたそれでも“ウチナーンチュ”か』『なんで政府の味方するんだ』と叱ったんですよ。そうしたらその機動隊員が、涙を見せないよう顔を背けながら、なんとも言えない表情を浮かべていて」
「それを見たとき、ものすごく悲しくなって。同じウチナーンチュを分断させてお互いに対立させてしまっているのは、まさに自分なんだと。日本は沖縄を二重に苦しめているんだと」
さらに翌々年、沖縄で当時20歳の女性が、米軍属の元海兵隊員に殺されてしまう事件が起きたことで、福田さんのなかで怒りと悲しみに加え、強い気持ちが生まれた。
「それから1年かけて、10人以上の人と市民発の再発防止策を考えたんです。僕の結論は、加害者も社会の犠牲者だったのかもしれない。社会格差や排除、家庭や学校で傷つけられた体験がなければこの事件は起きなかったはずだ、というものでした」
「いじめや虐待、DVなどの問題行動と今回の事件はつながっている。誰かを悪者として責めるだけでは、過ちは繰り返されてしまう。生育環境や社会環境のせいで得られなかった、他者との絆、世界に対する信頼感というもの。そこに着目するようになったのです」
ありのままを受け入れ、愛着の再形成をはかるための子どもの居場所の発想は、ここから生まれた。
2020年、沖縄県南城市の補助金を受けて「子どもの居場所」を開所。
そして昨年、「子ども第三の居場所」みんなのいえを開設した。
施設にはシアタールームなどのさまざまな機能が備わっていて、これからカフェやゲストハウスも徐々にオープンしていく予定。
現在、さちばるビレッジを利用しているのは、小学生から高校生くらいの年代のこどもたち。今後は、自分探しをする若い人や、子育て中のお父さんやお母さん、心や身体に傷を持つ人も訪れる場所になる。
「僕らはここを、『誰もが仲直り、やり直し、生き直しができる場所』と表現しています」
「誰かが発した声を受けとめる。そのままにしないで、一緒に解決策を探す。ときには、声にならない声もあるでしょう。それは心の耳で聴く。僕らが目指しているのは、それが当たり前にできる社会なんです」
最近おこなっているのが、対立を対話に変えていくことを目指したプログラム。
前回は、ガザの人々の生活を追ったドキュメンタリー映画を鑑賞。その後、パレスチナ料理をつくり、映画で語られていた「自由」というワードから、自由とはそもそもなにか? や、自由と不自由などについて哲学対話をしたそう。
今年5月からは、障がいを持つ人の生活訓練と就労支援をはじめる予定。ヨガやサウナなどで心身のケアをしたり、カフェやゲストハウスなど働く場を提供したり。
これから加わる人も一緒にアイデアを出しながら、さちばるビレッジに訪れる人がありのままでいられる場所を、一緒につくっていきたい。
「みんなのいえでの働き方は、この場所の利用者と、ここで働く人次第で決まります。今日働くのはカフェで、次の日はゲストハウスで哲学対話をしているかもしれない」
「人間って、白黒はっきりしているのではなく、常に揺れ動いているものだと思うんです。人に対して決めつけることはせず、多面的な存在として受けとめること。そこに共感していただけたら、とても心強いです」
福田さんの話を隣で聞いていた椿野さんが、つづけてくれる。
「私は、ブレないことがいいことだと思ってきました。けれどみんなのいえで働いてから、そんな考え方が変わってきたんです」
今は、カフェの責任者を務めている椿野さん。
1年半前、お子さんが沖縄本島北部の高校へ進学することをきっかけに、滋賀県から家族で引っ越してきた。
知人の紹介で、みんなのいえを知ることに。
「生きづらさを感じるすべての人のための居場所というテーマに、共感したんです。入ってみて、自分にはまった場所だなと感じますね」
はまった、というと?
「私自身が家族との関係の中で居場所が無く、自己肯定感の低い子どもでした」
でも大人になり、結婚して子育てをする過程で、ありのままの自分とはどういうものかを理解できたという。
「子育てって、どこで産むか、どんな風に育てるかとか。まさに選択の連続で。大変だけどとても楽しい経験でした」
「その一方で、私が良かれと思って選ぶことを、子どもが望んでいるとは限らない。それに気づくまでたくさん失敗をしてきて。周りに『助けて』と言えず、ひとりで子育てしてきたので辛いこともたくさんありました」
みんなのいえに来てからは、人との関わりのなかで、少しずつ本音が出せるようになったという椿野さん。
「ここにいる人たちは、みんなよく話を聞いてくれる。ありのままの自分を受け入れてくれるんです。みんなのいえに来てから、よく泣いてしまうんです(笑)」
こどもやスタッフとの日々の関わりを「ぶつかり稽古みたいですよ」と笑う椿野さん。
働く人にとっても、やり直し、生き直しができる場所なんだな。
カフェは、この春のオープンを予定している。今は、メニュー開発やオペレーションなど準備を進めている最中。
「この食堂は、心と身体を整えるための場でもあるんです。私たちが目指している、リトリート&リカバリーを、ここで実践していきたい。言葉でも、食事でも、それ以外でも。人と人が寄り添って、お互いに深く関わりあえる場所だなって思います」
「みんなのいえで働くうえで大事なのは、本音を言い合うというか、何事に対しても正直でいることだと思います」
そうつづけてくれるのが、平仲さん。
みんなのいえの立ち上げに携わった方で、現在は代表理事を務めている。
生まれも育ちも沖縄で、みんなのいえのある南城市の隣町で暮らしてきた平仲さん。
立ち上げの1年ほど前に、福田さんと知り合い、参画することに。辺野古基地反対のデモにも参加していたんだそう。
「小学校のときに、『世界がもし100人の村だったら』って番組に衝撃を受けて。いつか、こどもたちが前向きに生きることにつながるような仕事をしたいと思っていたんです」
立ち上げを経てからは、子どもの居場所の責任者として関わってきた。
ここで働くやりがいって、なんでしょう?
「こどもと同じ目線に立っていると、ときどき通じ合えたと思う瞬間があるんです。一緒になにかを話したり考えたりできる仲間が増えたような感覚で、うれしくなります」
「こどもが変わることで、親御さんが前向きになる瞬間も見れる。生きづらさを抱えている人が、私が関わったことで少しでも気持ちが明るくなる。そんなお手伝いができることが、しあわせです」
現在平仲さんは、代表理事の役割を果たしながら、人手が足りないときに現場をサポートしている。
「いつか議員になりたくて、今は町議会事務局で働いているんです」
「生きづらさを抱えるこどものなかには、貧困という社会課題を抱えていることがよくある。根っこを解決する手段として、地元のこどもたちに寄り添いたいと思っています」
「人は他人と一つにはなれない。けれど、共にいること、共に響きあうことはできると思うんです」
取材のあと、福田さんが話していました。
自分を開いて、深く関わった先にある、人と響き合う瞬間。みんなのいえでは、その豊かさを感じる日々が待っていると思います。
(2024/12/12 取材 田辺宏太)
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