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日常の暮らしを支え一歩先をいく電気工事で手に職をつけて生きる

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技術の進歩によって新しい仕事が増える一方で、なくなる仕事も生まれる。

職人という仕事は、人の手による技術の積み重ねで成り立っているので、これからも残っていくんじゃないだろうか、と思う。

今回紹介するのは、電気工事士という仕事。

シンプルにいうと、何もないところから建物で電気を使えるにする仕事です。

未経験からの挑戦も歓迎。独り立ちするには、最低5年程度かかるので、大変な道かもしれません。

でも、一度手に職をつけたら、将来にわたって仕事に困らない。そして日常の暮らしを支えていく。そんな可能性と責任感あふれる仕事です。

住宅やビルの電気工事や空調設備工事などをおこなっている有限会社斎藤電産社。

今回は、屋内外での配線工事や、空調設備の工事をする人を募集します。ゆくゆくは、電気工事士の資格を取得して、できる仕事の幅を広げていく予定。あわせて営業事務も募集します。

 

神奈川県川崎市。

JR溝の口駅からバスに乗って10分ほど。南に向かう。

最寄りのバス停で降りてすぐの場所に、「SAITO ELECTRIC WORKS」の文字を見つけた。

マンションの1階部分が斎藤電業社のオフィスになっている。あたりは落ち着いた雰囲気の住宅街。

扉を開けると斉藤さんご夫妻が迎えてくれて、打ち合わせスペースへ。

まずは社長の努さんに話を聞く。

気さくな雰囲気で、思ったことを率直に話してくれる方。

いまから57年前、努さんのひいおじいさんが東京電力の下請けとして電気工事の仕事を始めた。

依頼を受けたら、穴を掘って電柱を建て、電線を個人の住宅につなげて電気を使えるようにする。

住宅の増加に伴い、電気工事の依頼が増えたタイミングで法人化して、事業を拡大。

努さんは3代目社長として、工事全体の進行管理や従業員のシフト作成といった管理業務をメインに担当。

「ありがたいことに、いま本当にたくさんのご依頼をいただいていて。これまではまちの電気工事店という規模でやっていたんですが、規模を拡大して会社組織としてやっている最中です」

19歳で働き始めてから一貫して電気工事の仕事をしてきた努さん。

代表を引き継いで、会社の方針を定めようと、自分がこれまで大切にしてきた考えを整理したときにある言葉が出てきた。

「ぼくらは一歩先をいく電気工事をしよう、と従業員に常々伝えています」

一歩先をいく?

「一般的には電気工事って、図面で決まった通りの場所に照明を取り付けたら終わり。でもそれだけだと会社としての成長がないと思っているんです」

「コンセントがあると便利な場所や、場所に応じた最適な照明の種類を提案しています。図面には書いていなくても、お客さんが使う一歩先を想像して、取り付けることを大切にしています」

最初の打ち合わせのタイミングで、お客さんの暮らしにとって必要だと思ったことを提案。そうした電気工事のスタイルが評価され、取り付け工事だけでなくトータルコーディネートを頼まれることも。

「ある物件を、照明器具の選定から担当させてもらうこともありました。そうした設計から携わるものは、全体の1、2割くらいですが、そこまで考えることでお客さんに喜んでもらえる。それが、また仕事を頼んでもらえる理由だと思います」

現在受けている依頼の8割は新築物件の電気工事。

具体的にはどのように働いているのだろう。

まずは事務員さんが仕事の依頼を受けて、見積もりを作成。照明を取り付ける箇所を図面に記入をして、東京電力や国への申請書類をつくる。

申請が通ったあとは電気工事士の出番。

地面を掘って電柱を建て、ほかの電柱から電線を引っ張ってくる。建物の骨組みと外壁が出来上がってきたら、分電盤と呼ばれる配線をまとめる設備を取り付け、室内の各所に電源を配置。

仕上げの一歩手前で壁に穴を開けて、裏側から配線を引っ張ってくる。そこにコンセントやスイッチを取り付けて、一つの電気工事が完了する。

「分電盤って言っても聞き覚えはないかもしれませんが、いわゆるブレーカーですね。地震の揺れや漏電を感知したらブレーカーを遮断して、私たちの安全を守ってくれる。実は大切な装置なんです」

はじめて働く人は、まずは先輩とペアになって現場で経験を積むところから。

「いまは本当に現場が忙しくて、丁寧に教える余裕はもしかしたらないかもしれません。ただ技術がないときこそ、現場経験は重要。先輩の作業を見ていくことで、自然と技術を覚えられると思います」

一年前までは少しゆとりがあった依頼数が、現在は約2倍にまで増加。

それに伴い、電気工事士の担当現場の数も倍になり、売上も昨年から約130%成長している。

期待して仕事を頼んでくれるお客さんの力にもっとなりたい。けれども、現在働いている5名の職人だけでは対応しきれない。そんな経緯から今回の募集を決めた。

「業界全体として電気工事士の人手不足が顕著になってきていて。これまで業界の担い手だった団塊の世代が定年に近づいて、そこにコロナの影響もあって職人が減っているんです」

少し前までは1日に1万5000円ほどで職人さんを手配していたところが、いまでは3万円ほどに。それでもなかなか人が集まらないこともあるという。

「あと5年から10年もすると、ぼくたち40代の世代がメインになるけど、団塊の世代よりは職人が少ないし、その下の20〜30代になると極端に少なくなってしまう」

「そうなると、工事を頼みたくても職人がいない。これからは、職人さんが仕事を選ぶ時代になってくると思っています」

国家資格や技術の習得にはそれなりに時間がかかるけれど、一度手に職をつけたら将来にわたって仕事がなくなることはない。電気工事士の減少につれて、一人当たりの需要が高まっていく。

一方で、まだまだ業界のイメージが良くない、と努さん。

「職人と聞くと、『キツい、汚い、臭い』といった3Kのイメージがあるんです。でもぼくらの仕事って実はそんなことなくて。女性でもできる仕事がたくさんある。そこも合わせて伝えていきたいと思って、会社のInstagramで活動の発信もしています」

仕事のイメージを変えるためにも。そしてこれからはじめて働く人でも挑戦しやすい環境を整えていきたい。

そういって紹介してくれたのが、2025年5月のオープンを目指して、準備を進めている社員寮。

作業服や仕事用の携帯電話、居住環境を用意して、仕事に興味を持った人が一定期間、寝泊まりしながら働ける環境をつくることで、技術の担い手を増やしていきたい。

わざわざ新築で建てて、設計にもこだわった空間。

寮というよりも、シェアハウスのような温かさがありますね。

「ぼくらの業界って、働きはじめるハードルが高い。なので興味を持った人がまずはお試しで働ける環境を準備できないかと思って、寮を建てることを決めました」

「職人って先輩の姿を見て学ぶイメージがあると思うんですけど、それも変えていきたい。寮の研修室で、ベテランから工事の基礎スキルを教わる機会もつくる予定です」

住宅サイズの電力を扱えるようになる国家資格『第二種電気工事士』の受講料も会社で負担。まずは仕事に慣れて、ゆくゆくは一人で現場を回せるようになってほしい。

今は「電工女子」と呼ばれる女性の電気工事士も増えている。現場ではどのように働いているのだろう。

そう聞いたところ、紹介してくれたのが努さんの奥さんの寿美さん。

物腰やわらかく、なんでも相談できる頼りになる方。

現在は事務として、経理処理や東京電力、国に提出する工事資料の作成を担当。

ときおり自身も現場に出て工事を手伝っている。

「人手が足りないからと呼ばれて、手伝いに行ったことがきっかけで現場にも出るようになって。もちろん最初は右も左もわかりませんでした(笑)」

たとえば、脚立に乗って照明器具を取り外したり、ドライバーでコンセントを取り付けたり。専門的な知識がなくても、そういった作業は女性でも問題なくできる。

何より依頼が増えている今は、そういった手伝いがありがたいそう。

「電気設備なので重たいものもありますが、それは男性でも重たくて。そういう場合はみんなで協力して運んでいます。電線を引っ張ったり、簡単な工具を使って取り付けたり。基本的な作業については、私でも問題なくこなせますね」

工事に入る現場は、東京と神奈川が中心。

毎朝、会社に集まってお茶を飲みながら、各自の担当場所、進捗状況を確認。それぞれの現場に向かう。

現場では、現場監督や大工さんなど、工事に関わるほとんどの人が顔見知り。1日に2回、みんなで集まって休憩を取ったり、雑談をしたりしながら作業をしている。

「うちは顔馴染みの業者さんが多いので、現場に行ってもよく話しますね。職人って黙々と作業をするイメージがあって、もちろんそういう進め方をする人もいますが、みんな話すことが好きな人たちです」

園児が遊んでいるなか、保育園で照明を取り付けたり、地元の夏祭りで提灯を照らすために工事をしたり。電気工事の仕事をはじめてから、自分の仕事が日常のさまざまな暮らしを支えていることに気づいた。

「暑いなかで作業をすることもあるので、大変なときもありますが、子どもたちが楽しそうにしている姿や、電気がついて喜んでくれる人の姿を見ると、疲れも吹き飛びますね」

仕事のやりがいってどんなことでしょう?

「本当に緊急で困っているときに、工事に入って役に立てることですね。たとえば、自分の家で丸1日電気がつかなかったら不便じゃないですか。寒い日にお風呂に入れなかったり、夏場にエアコンが使えなかったり」

「オフィスで働いているときに電気が使えなくなったら、仕事も進められないですよね。いまでも月に2件くらいは、そういった依頼があって。そういう場合は優先して工事に入っています」

自分たちにとって電気のある日常は当たり前で、使えなくなることを想像するほうが難しい。

そんな当たり前の日常を支えることにやりがいを感じる人が向いているんだろうな。

取材の最後に、実は、全国のホテルに泊まれる会員券を社員の慰労のために会社で購入していると教えてくれた努さん。

「自慢していると思われたくなくて言わなかったんですが」と謙遜しながらも、ともに働く仲間のために環境を整えようとしている姿が印象的でした。

常に一歩先を見て、行動してきた努さん。

だからこそ事業も拡大しているし、結果として安定につながっていると感じる。

まずは気軽に門戸を叩いてみてほしい、そう思える雰囲気がありました。

(2024/11/28 取材 櫻井上総)

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手に職をつけて生きる
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