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未経験から多能工を目指すRPGのような町工場

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「せっかく機械が揃っていて、いろんな加工ができる。あとは使えばいいだけなのに、もったいないんですよ!」

そう話すのは、プレス加工で産業用金具の生産を行う株式会社マサオプレスの代表、宮澤章さん。社名にある“マサオ”は、創業者である宮澤さんのお父さんの名前です。

プレス加工とは、ざっくり言えば、金属の板を曲げたり絞ったりして立体の形にする技術。マサオプレスは、もともと「蹴飛ばしプレス機」というアナログな機械一台からスタートした町工場ですが、現在はさまざまな設備を揃え、幅広い加工に対応しています。

ISOなどの国際認証も取得し、海外の規格にも対応できるので、引き合いも多い。ここでつくられる手のひらサイズのパーツが、電車や航空機、あるいはテーマパークの乗り物の部品となって、私たちの暮らしを見えないところで活躍しています。

会社としての可能性は広がってきているけれど、それを活かすメンバーが足りていない。これが経営者である宮澤さんの今の悩み。

今回は、ここで働くものづくりエンジニアと、ものづくりの魅力を伝える営業広報アシスタントを募集します。集中力をもってコツコツ手を動かせる人なら、製造の基本はすぐ覚えられる。未経験から手に職をつけたい人も歓迎です。

記事のなかでは少し専門的な機械や手順の説明も出てきますが、今の時点ではわからなくて大丈夫。

平面から立体に起こしていくための手順を考えたり、立体にしたときの形を想定して板のカット方法を決めたり。仕事に必要な感覚は、ちょっとパズルにも似ていると思います。

 

マサオプレスは羽田空港から多摩川を隔てた、川崎市の東側にある。

JR川崎駅から出発する路線バスを降り、大きなトラックが行き来する国道沿いを歩く。全体的に白っぽい工場風景の中に、紺色の建物が見えてきた。

ドアを開けて中に入ると、大小さまざまな機械が並ぶ作業場がある。3階建の各階には、さまざまな重量のプレス機のほか、レーザーカットの機械や、CADなど製図を行うためのコンピューター、測定器などの精密なデジタル機器が設置されている。

まずは打ち合わせスペースで、代表の宮澤さんに話を聞かせてもらう。ユニフォームも建物と同じく紺色のジャケットと、デニムパンツ。

「もともとは僕の祖父が大田区で金属加工の仕事をしていて。三男だったうちの父が独立したのが1979年。しばらくは母と2人でやってきて、1990年ごろから僕が手伝うようになりました。まだ景気が良くて、待っているだけでも仕事が来た時代です」

当時はシンプルなプレス加工がメインで、いわゆる下請け的な仕事が多かった。専門学校を卒業したばかりの宮澤さんは、なかなかおもしろみを見いだせなかったという。

気持ちに火をつけたのは、周りにいたほかの工場の先輩たち。

「僕が若いころの町工場って、高度経済成長期を支えた世代がまだまだ現役で。言葉遣いも荒々しい、ちょっと怖い感じの人が多かった。何か仕事をお願いしに行っても『そこ置いとけ!』ってぶっきらぼうで、逆に仕事を頼まれるときは『こんなこともできねえのか』って言われて」

「それが悔しくてね。なんとかしてやろうって思うようになりました。もともと他社でできるところが少なかったチタン加工のノウハウも、大手製鋼メーカーの協力で身につけて。自分でできることが増えるよろこびが、仕事のやりがいになっていきました」

2004年には、住宅地が増えつつあった大田区から川崎市に移転。

そのころから機械の種類も少しずつ増やしてきた。今では、プレス加工だけでなく、金型を使わない板金加工、デジタル技術を駆使したレーザー加工もできる。大量生産から小ロットの試作まで、幅広く請け負えるようになった。

新しい機械だけでなく、人の手によるアナログな技術も備えていることが、今後は強みとして生きてくると宮澤さんはいう。

「ものづくりって、自動車のライン工場みたいに自動化されているイメージかもしれないけど、うちではその手前の試作の仕事もたくさんやっていて。どうやったら図面通りの形ができるか、いわば、つくり方を考える仕事も多いです」

「どんなにシミュレーションをしていても、いざ加工すると、絶対にその通りにはいかない。力の掛かり方とか、素材とオイルの相性とか。そこから調整して追い込んでいく力は、自分の手で素材を扱った経験からしか得られません」

製品を設計するメーカーは、細かい部品加工のノウハウまで自社で蓄積しているわけではない。依頼された図面に対して、より合理的な方法を考えて提案することも、マサオプレスがプロフェッショナルとして期待されていることのひとつ。

「業界のなかで、もののつくり方を知っていて、トータルなディレクションができる職人は減る一方。うちで培ってきたノウハウを受け継いで、今から人を育てられれば、これからもっと重宝される会社になるはずです」

2010年に2代目となった宮澤さん。できる加工の幅を広げる戦略が功を奏し、10人未満の会社でありながら一時は年商2億円を達成した。

ところがその後、当時売上の約半分を占めていた顧客から、取引を打ち切られてしまう。きっかけは、生産コストの考えについて、折り合いがつかなったこと。

「直後の1〜2年は、当然赤字でした。でも、そのころから自分たちの適正価格じゃないとやらないっていう方針を決めたので、今のほうが利益率は良くなっているんですよ。取引先との関係も、下請からパートナーに変わってきた実感があります」

「働く人から見ると、小さい会社って不安かもしれない。だけど、うちはニッチな仕事での競争力もある。行政との仕事の実績もあるし、金融機関からもきちんと認められる経営を続けているので、そこは安心してもらえたら」

もともと特定の産業に依存していなかったことも、早めに立ち直った要因のひとつ。オールラウンドで受けられる体制で、新しい業界のお客さんにも対応しやすかった。

今後は、地元川崎で力を入れている水素エネルギー産業にもアプローチしたいという。未来のパートナーに向けた情報発信は、今回募集する営業広報アシスタントの大きな仕事。

「飛び込み営業で開拓をするようなことは求めません。展示会に立ったり、WebやSNSの情報発信をしたり、うちの強みを伝えてファンを増やすのが目標です」

「それなら外注でもできるって言われるんですけど、やっぱり表だけ見てもわからないと思う。中に入って一緒に話しながら、伝え方を考えてくれる人が必要なんです」

営業広報アシスタントとして入る人も、まずは現場を見て技術を知ってほしいと宮澤さん。

「今後はスキルマップをつくって、新しく入る人の成長を可視化していく予定です。まずは基本のプレス加工から、一つひとつスキルを増やして、最終的には設計までできる多能工を目指す。なんか楽しそうでしょう?」

「うち、機械はいっぱいあるので、それぞれどんなことができるか、触って遊びながら覚えてもらえるといいですね」

 

現在マサオプレスで働いているのは、宮澤さんも入れて7名。そのうち

人は宮澤さんの奥さんと弟さん。そのほかに、20〜30代の若手スタッフが3人いる。

なかでも宮澤さんが頼りにしているのが、入社7年目になる伊東さん。作業中のところを撮影させてもらう。

伊東さんはもともと工業系の高専で、ITや化学を専攻。本格的にプレスや機械作業に向き合ったのは入社してから。

仕事をはじめたころは、どんな感じでしたか?

「一番シンプルなプレス加工から教わったんですけど、とにかく、動きの速さに圧倒されていました。機械にセットして1秒足らずで物ができて、その短い時間でちゃんと確認もしないといけない。次々流していく動作に、集中力を維持するだけで必死でした」

「だから僕は、これをタイムアタックだと思うようにして。日々、スピード更新をモチベーションにしていましたね」

タイムアタック。攻略のコツとかあるんですか。

「一回一回の動きを見直すことです。右手に工具を持つなら、左手で物をセットしたほうがスムーズだとか、配置ひとつで動きの無駄がなくなるので」

「そういう単純作業に集中して取り組める人なら、プレスは初心者にもできると思います。ただ、そこからより複雑な作業へスキルアップしていくためには、自分の動作を改善したり、治具を制作したり、アイデアを出す姿勢が必要かもしれません」

伊東さんは入社から3年ほどで、レーザーや、複雑な加工も任されるように。

工程数の多い形や、手の力で曲がってしまうような薄い板、ものすごく小さな部位の加工。難しさも、案件によっていろいろだ。

「たとえば一枚の板を、金型を使わず、V字に折り曲げる作業だけを繰り返して形をつくる加工があって。先に折ったところが、次の折り目をつけるときに機械に当たらないようにするには、順番が重要です」

「頭の中で、どうすればうまくいくか考えるのも結構好きだし、考えた工程が、実際うまくいくとうれしい。立体パズルみたいな感じで」

日々の仕事は、基本的に一人ひとり個別に作業を進める。だからこそ、自分から相談したり質問したりする姿勢があるといい。

加工方法について相談するときは、立場の上下関係なく意見を出し合う。今は、伊東さんがもともと得意だったCADやコンピューター関連のことで、工場長たちから頼りにされている面もあるという。

「基本的に、人を大事にする会社だと思います。家族の体調不良のようなプライベートな理由で休むときも、快く対応してもらいました。だけど、お互いのことには、いい意味であんまり詳しくないです。プライベートについて、全部話さなくてもいい空気感もあるので」

「作業を自分で全部できるのも、僕にとっては安心感というか。達成感を感じられる理由のひとつだと思います」

日常的にインターネットで技術を調べたりして、スキルアップを楽しんでいる伊東さん。その遊び心でつくってみたというバイク模型は、製品化され川崎市のふるさと納税返礼品にもなった。

「うちでできる加工の種類は、単純にスピード勝負のプレスから、複雑なパズルのようなものまで色々あります。向上心や好奇心があれば、適性に合わせて成長できる環境だと思います」

ゲームのステージを一つひとつクリアしていくように、スキルを増やしていく。

マサオプレスのステージは今後も拡張していく見込みです。時間をかけて、レベルアップを楽しんでください。ものづくりで生き残るための、強い武器を手に入れられると思います。

(2024/12/25 取材 高橋佑香子)

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